【iRONNA寄稿記事】アイヌ新法成立で大きくなる「琉球独立工作」の火種

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仲村覚(日本沖縄政策研究フォーラム理事長)
 アイヌ民族を法律として「先住民族」と初めて明記したアイヌ新法が4月19日、国会で成立した。この政府の動きは、沖縄問題を専門として活動している筆者にとっても看過できないものだと認識している。
 昨年8月16、17日の2日間にわたり、スイス・ジュネーブの国連人種差別撤廃委員会で対日審査が行われた。日本政府代表の外務省の大鷹正人・国連担当大使は、初日の全体説明で、真っ先に2020年4月にアイヌ文化センターをオープンすることについて紹介した。先住民族であるアイヌの象徴空間を建設し、文化保護に力を入れていることをアピールしたのだ。
 全体説明終了後、各委員から日本政府に対して質問が行われた。「アイヌ語は危機にひんしているが、学校で教えられていない」「教育や労働、文化・言語の権利が保障されていないのではないか」などといった内容であった。
 先住民族の人権問題として指摘されているのはアイヌだけでない。沖縄についても多くの指摘を受けた。

・琉球・沖縄の人たちを先住民族として認め、権利を守ることが必要である。しかし、日本は先住民と認めることを拒否している。
・日本の本土から移住した人は別として、琉球の人たちの先住民性を認め、権利を守る必要がある。
・琉球・沖縄について、日本は先住民族ではないというが、米軍基地があり、事故が起き、人々が苦しんでいる。

 2日目、大鷹代表から前日の質問に対する回答が述べられた。アイヌに関しては、「アイヌ生活実態調査が定期的に行われているが、生活状況の向上は着実に効果を上げている」と回答した。
 沖縄に関しては、「先住民はアイヌ以外には存在しない。沖縄の人々が先住民だとの認識は国内に広く存在しない」「米軍による事故について、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設が、危険を一刻も早く除去する唯一の解決策である」と回答している。
糸数慶子参院議員=2017年8月(斎藤良雄撮影)
糸数慶子参院議員=2017年8月(斎藤良雄撮影)
沖縄についての回答は、筆者もその通りだと思う。アイヌに関しては専門家でないので、問題点の指摘は他の専門家に譲る。
 しかし、アイヌ新法の成立が「琉球独立工作」という最も危険な火種に油を注ぎ込むことになるのではないかと、大きな危惧を抱いている。それは、今から約5年前の出来事がちらついて離れないからである。
 2014年、糸数慶子参院議員が米ニューヨークの国連本部で、先住民族代表としてスピーチを行ったことが地元紙に報じられた。筆者はその報道を知り、抗議するために、彼女の所属する沖縄社会大衆党の事務所の連絡先を探し出し、電話で次のように追及した。

筆者: 私は沖縄県出身の者だが一度も自分を先住民族だと思ったことはない! あなた方は『沖縄の自己決定権の回復』を唱えているが、それは日本政府に沖縄県民を先住民族と認めさせて、その権利を獲得するということではないのか。
社大党職員: はい、そうです。
筆者: では、大事なことを隠しているのではないか? 先住民族の権利を獲得するかもしれないが、それにより、日本人としての権利を失うではないか。それを隠しているのは卑怯(ひきょう)だ。

 この追及に対し、社大党職員が言葉に詰まるだろうと予想していたが、思いもよらない回答が返ってきた。

 仲村さん、心配はいらないですよ。アイヌの人々は、既に政府により先住民族だと認められていますが、彼らは日本国民であり何の権利も失いませんよ。

 この答えに、筆者は衝撃を受けた。彼らの求める沖縄の「自己決定権」とは、総額3千億円の沖縄振興予算を受け取る権利を維持しながら、先住民族の土地の権利により、米軍基地を撤去する権利を新たに獲得する運動だったからだ。
 先住民族の特権のみを獲得しても、何一つ失うものはない。つまり、新たな巨大な「在日特権」が日本に出現するということを意味する。
 そして、彼女の言葉に、アイヌが先住民族として認められたのなら、いずれ沖縄も先住民族として認められるべきだという思いも込められていることにも、強い危機感を覚えた。
続きは、iRONNAのサイトで御覧ください。