■宮古海峡は中国空軍の幹線道路か
日中関係が改善に向かっていると言うニュース報道を見ることが増えた。また、安倍総理も来年の日中平和友好条約締結四十周年に向けて、習近平国家主席の相互訪問実現などによる両国の関係改善を目指している。
しかし、冷静に中国の動きをみると、日中友好とは対極的な動きをしている。得に最近顕著なのが中国空軍の動きだ。平成二九年十二月一八日、中国空軍が今までに無い新たな動きをした。Su−30(スホイ30)戦闘機二機、H6爆撃機二機、TU154情報収集機一機の合計五機が東シナ海から対馬の南方を通過し、日本海へ抜けた訓練を実施し、同じルートを引き返した。その後、中国空軍の報道官は、「日本海は日本の海ではない」と言い放ったのだ。更に同日、バシー海峡から飛来した中国軍のY8電子戦機が宮古海峡を通り抜け、中国本土方面へ飛び去った。マスコミで報道されていないが実は、平成二九年の十一月と十二月だけでも宮古海峡を九回も通過している。十一月一八日には情報収集機一機、一九日には爆撃機四機、情報収集機と電子戦機がそれぞれ一機、二三日には、爆撃機四機と電子戦機が一機が通過している。引き続き、十二月にはいると、七日と九日の両日は、爆撃機四機と電子戦機一機、一一日には爆撃機二機、電子戦機一機、情報収集機一機、戦闘機と推定される航空機が二機、一七日には、情報収集機一機、電子戦機二機、十二月一八日には前述したとおり、そして、二〇日には電子戦機一機、情報収集機一機が通過し、別途電子戦機が奄美諸島の北西の海域を飛行している。
宮古海峡は、第一列島線最大の海峡である。第一列島線とは日本列島を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至るラインで、中国海軍および中国空軍の対米国防ラインとされる。有事において、このライン内の制海権、制空権を握ることを目標として戦力整備、訓練を行ってきた。その外にあるのが第二列島線である。第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。彼らは二〇二〇年を目処にこの第二列島線の内側の制海権、制空権の獲得を目指している。その目的は台湾有事の際に、中国軍が米軍の増援を阻止・妨害する海域と推定されている。そうなると、当然日本も無事ではいられない。第一列島線の外側である南西諸島の東側は日本の生命線であるシーレーンだからだ。ヨーロッパや中東から運ばれてくる物資や石油の輸送航路であり、日本が輸入する原油のほとんどがここを通って運ばれてくる。それは、有事になると日本の生命線が断たれてしまうかもしれないということだ。更に彼らは二〇四〇年までには米国に代わって西太平洋とインド洋を支配する野望をもっている。
さて、中国空軍が宮古海峡を通過する訓練を頻繁に実施する理由が理解できたと思う。いまや列島線突破は中国海軍にかわって、空軍が担っているかのようでもある。中国空軍が初めて宮古海峡を通過したのは、平成二十五年年七月二十四日に早期警戒機「Y-8」が初めてだ。平成二十六年十二月六日には初めて五機編隊で爆撃機を伴って宮古海峡を通過した。そして、平成二十八年九月二五日、初めての中国の戦闘機が通過した。その翌年の平成二九年の十一月と十二月だけで九回も通過されるようになったのだ。中国空軍の太平洋進出は間違いなく急加速している。
■列島線突破巡航訓練を本格化した中国空軍
今後、中国空軍はどのように動いていくのか?平成二九年十一月三十日、中国国防部報道官の呉謙大佐は記者会見で、「台湾は中国の一部分であり、訓練は年度計画内の定例アレンジである。類似する訓練は今後も継続される。」と述べた。さらに、「私はここで強調する。中国を縛りつけることのできる鎖はない」とも述べた。これは、中国空軍の第一列島線突破宣言とも言えるだろう。更に、十二月一一日の訓練の翌日、「中国空軍は前日、轟-6K、蘇-30、殲-11と偵察機、予警機、空中給油機などを” 繞島巡回”に出動、国家主権と領土を完全に守る能力を磨き強化した」と発言した。この発言には重要なキーワードが三つある。
一つは「繞島(にょうとう)巡回」である。このキーワードはこの日の記者会見で初めて公式の場で使われた単語だ。「繞」は「回る」とか「巻く」という意味である。中国空軍は十一月三十日に宣言したとおり、既にバシー海峡と宮古海峡を既に突破しているため、先島諸島と台湾の周回を巡航飛行する訓練を頻繁に行っている。それを中国では「繞島巡航」と称し、台湾では「繞台巡航」と称している。
この発言からわずか一週間後の十二月一八日、前述したように早くも対馬海峡を突破し、日本海での訓練を始めた。「繞島巡航」は台湾だけに限らないということだ。第一列島線には、その他に、大隅海峡、吐噶喇海峡、宗谷海峡、根室海峡がある。近いうちこれらの海峡を突破する飛行訓練、そして最終的には本州を一周する訓練を始める可能性も低くない。気がついた時には日本列島至る所を中国軍機が常時、巡回パトロールしており、有事になれば日本各地が奇襲攻撃されたり、シーレーンを抑えられることになるかもしれないのだ。
残り2つのキーワードは、「轟-6K」と「空中給油機」だ。「轟-6K」は中国最新型の爆撃機で、航続距離六〇〇〇Km、更に射程が一五〇〇 から二〇〇〇Kmの「長剣-10」という巡航ミサイルを搭載している。メインのターゲットは米空母だ。これに空中給油機が備われば、グアム攻撃も可能となる。つまり、中国空軍の頻繁な宮古海峡通過は台湾統一に向けた、米軍の増援阻止であり、第二列島の制覇である。よって、「繞島巡航」という新たな中国の戦略用語は、日本語では「第二列島線制覇巡航」と訳するべきなのだ。
このような軍事的危機の中、外務省は、中国空軍の動きに対して、目立った抗議をしていない。「宮古海峡は日本の防空識別圏内にあるので、航空自衛隊はスクランブル発進をして警戒監視は行うが、中国軍機が通過するのは領空ではないので、国際法上問題はない。」というのが政府の立場のようだ。更に中国空軍のサラミ戦略に気がついていないのか日本のメディアは、執筆時点でこの件に関する報道は皆無だ。最も心配なのが、安倍内閣の推進する日中関係の改善の動きである。もし、「第二列島線制覇巡航」を看過したまま一路一帯に協力すると、日本は、自らの首を締める縄を綯うことになる。しかし、これが日中友好の本質なのだ。実はこのようなことは初めてではない。
続く