■「米中新冷戦時代」が始まった!
JBPressに掲載に掲載された古森義久氏の記事を転載いたします。
タイトルは穏やかな表現になっていますが、私の理解だと「米中新冷戦時代が始まった!」というタイトルが相応しいと感じました。
第二次大戦後直後の1947年、トルーマンドクトリンにより米国の共産主義勢力の封じ込め政策、すなわち、米ソ冷戦が始まったように、
米国が「空・海戦闘局」(エアシーバトル局)を設置する事により中国の封じ込め政策、すなわち米中新冷戦が始まったと言えるのではないかと思います。
「空・海戦闘局」の設置により今後、米国は、空軍力、海軍力、宇宙開発、サイバー攻撃力の総力を使って中国人民解放軍の接近阻止戦略を打ち破っていく意思を示ししたわけです。
米国の軍事同盟国である日本は、この大きな変化についていかなければなりません。
そして、普天間基地移設問題で迷走する沖縄は、この米中冷戦の最前線にあるという事を一刻も忘れてはならないと思います。
(仲村覚)
■もはや静観していられなくなった米国、中国軍拡の抑え込みに
米中新冷戦なのか。
ついそんなことまで思わされる米国防総省の発表だった。11月9日のことである。
前回のこのコラムでは、オバマ政権のアジア再重視の新軍事戦略についてリポートした。
その後に国防総省は、そのアジア重点の新戦略を極めて生々しい軍事態勢の強化として公表したのだった。
この戦略は「空・海戦闘」と呼ばれる。中国の軍拡の脅威に米国がついに正面からその抑止策を取ることを宣言した、と言える。
■米中両国の安全保障関係は新時代へ
米国防総省は11月9日、報道陣に対して、「空・海戦闘」戦略の構築と、そのための新たな「空・海戦闘局」の開設を公表した。
この措置は、中国が明らかに米軍を対象に新しい兵器を配備し、戦術を発展させていることへの抑止策として、中国の主要拠点を空と海から、さらにはサイバー攻撃や宇宙戦略によって反撃を加えられる能力を高めるという骨子だった。この新戦略により米中両国間の安全保障関係は新時代に入るとも言える。
この動きを奇異に感じる向きもあるだろう。米国と中国は貿易や金融という面で密接な補完関係にある。対テロ闘争や大量破壊兵器拡散防止では、協調の態勢をも保っている。だが、それでも中国は明らかに米国を主目標としているとしか思えない一連の軍事措置を取り、総合的な軍事能力を高め続けている。米国敵視と見るしかない動きである。このあたりが米中関係の複雑さのエッセンスだろう。
米国は、中国の戦力全体の増強を懸念している。個別の軍事動向としては、例えば以下のようなことがある。
・中国は米側の人工衛星を標的として想定する衛星破壊ミサイルの実験を断行した。
・中国軍は、台湾有事などで米軍部隊の接近を阻む「接近阻止」策を強調し、そのために米側の空母などを標的とする対艦弾道ミサイルを開発した。
・初の空母の配備に加え、新鋭のステルス戦闘機の開発に乗り出している。
・米軍の中枢へのサイバー攻撃を頻繁に実行している。
・南シナ海や東シナ海で増強した軍事力を誇示して、周辺諸国を威嚇する行動を取る。
米国防総省は中国のこうした強硬な軍事姿勢に対し、ついに抑止としての積極的な攻撃能力を高める具体的な措置を取ることを公表するに至ったのだ。
■まるで戦争を始めるかのような軍事戦略
オバマ政権はこれまで中国を無用に刺激しないという配慮のために、中国の軍拡に対しても抑制された対応を見せてきた。
中国を名指しで批判することを避けてきたのだ。
この配慮は今もなお機能しており、今回、明らかにされた「空・海戦闘」戦略もその仮想対象として公式の発表には「中国」という国名を出していない。
しかし、今回の国防総省高官の説明では、報道陣からの「この戦略の対象となる国は中国以外にあるのか」という質問に、高官の1人は「ない」ことを認めた。
他の高官は「この新戦略は中国の新鋭攻撃用兵器が南シナ海や黄海での航行の自由を脅かすことへの懸念から生まれ、米側が中国のそうした動きを座視し続けることはないという意思表示だ」と述べた。
そして何よりも、11月13日のホノルルでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に各国記者団の前に登場した米太平洋統合軍のロバート・ウィラード司令官が、米国のアジアに向けての新しい安全保障政策の対象として、第一に「中国の経済的、軍事的な前進」を指摘したのだった。
要するに「空・海戦闘」戦略は米軍の新たな対中軍略なのである。
国防総省高官の説明によると、この新方針は「海洋戦略」「空軍力」「海軍力」「サイバー攻撃力」「宇宙開発」という5分野に及ぶ軍事戦略だという。さらに具体的な内容としては以下のような目標が挙げられた。
(1)中国の新型の対艦ミサイル破壊のための空海軍共同作戦
(2)米軍用の人工衛星の機動性の向上
(3)中国の「接近阻止」部隊への空海両軍共同のサイバー攻撃
(4)有人無人の新鋭長距離爆撃機の開発
(5)潜水艦とステルス機の合同作戦
(6)海空軍と海兵隊合同の中国領内の拠点攻撃
(7)空軍による米海軍基地や艦艇の防御の強化
こうした目標を見ると、いかにも米軍が中国軍を相手に戦争を始めるかのようにも思えるが、実態はこうした目標を可能にする措置を取り始める、ということである。
米軍がそうした軍事能力を保持して、中国側から威嚇や攻撃を受けた場合には断固、反撃するという態勢を築けば、そのことが中国側の冒険的な軍事行動を抑止することになる、という考え方である。まさに抑止の措置なのだ。
オバマ政権のパネッタ国防長官やクリントン国務長官は、イラクやアフガニスタン駐留の米軍が減った後は、アジア・太平洋に戦力の新たな力点を置く方針をすでに公表していたが、今回の説明はその具体的な目的や内容を明らかにしたことになる。
この「空・海戦闘」という新概念はすでに今年夏ごろから固まっていたが、オバマ政権全体としての中国への配慮から発表が延期されてきたという。
■「このまま静観」という態度がいよいよ取れなくなった
この新戦略の説明にあたった米国防総省高官の1人は、「この新戦略は、米国の対中軍事態勢を東西冷戦スタイルへと変える重大な転換点となる」と強調した。
米中両国が軍事面での対立状態を明らかにした構図が、米ソ両国が対立した東西冷戦に似ている、という意味だろう。
この変化は、従来の米中関係の安全保障の領域が変質したのだとも言えよう。
米中関係が新時代に入ったとも表現できる。
米中両国間ではこれまで中国の軍拡が顕著であり、米側は懸念を深めていたが、それを具体的な政策や戦略へと反映させるには至っていなかった。
だが、中国に対してソフトな姿勢を保つことに努めたオバマ政権も、ついに軍事的な対応策を示さざるを得なくなったのである。
その理由は、中国側の軍事増強志向をもう黙視してはいられないと判断したということだろう。
だから、米中関係の変容とか新時代という形容もそれほど誇張とはならないというわけだ。
米中軍事関係に詳しいラリー・ウォーツェル氏は、「オバマ政権は中国の軍拡に懸念を深めながらも、中国の反発から米中関係全体が悪化することを恐れて、この新戦略を明示することをためらってきた。だが、ついにこのまま静観という態度が取れなくなったのだろう」と述べて、「空・海戦闘」戦略の公表を歓迎した。
同氏は議会政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」の委員を長年務める中国軍研究の専門家である。
ウォーツェル氏は、この新戦略の結果、西太平洋での米海軍の存在が拡大するとともに、沖縄駐留の海兵隊の役割への期待も大きくなるとの予測も明らかにした。
日本としても、必ず影響の表れる米軍の新戦略だと言えよう。
(転載終わり)