来年1月14日に台湾総統選挙が行われます。4年ごとに行われる台湾総選挙は、中台関係に最も影響を与える重大イベントです。
いま、耳に入ってくる情報では民進党の蔡英文氏が優勢のようです。
中国よりの現総統の馬英九が落選し、民進党の蔡英文氏が勝利する事は、中国の台湾統一にブレーキがかかる可能性が高いので、望ましい事といえます。
しかし、その時に中国政府はどう動くのか、そして、現在中国包囲網を作った米国はどう動くのかが非常に気になります。
米中の動きを理解するには、米中の台湾をめぐる基本的な方針である、「反国家分裂法」や「台湾関係法」が現在の台中関係においてどのような意味があるのかを理解する事が必要だと思います。
まず、最近のニュースでどのような状況か確認してみましょう!
<台湾総統選 馬氏苦戦 中国「慎重介入」を模索>
(産経新聞 2011年11月25日(金)08:00)
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/world/snk20111125098.html【北京=矢板明夫】台湾の総統選挙で、政権奪還を目指す最大野党・民主進歩党(民進党)の蔡英文主席が支持率を伸ばしていることに中国当局が焦りをみせている。公式には「台湾の選挙に介入しない」との立場を強調しているが、要人発言などを通じて台湾世論に揺さぶりをかけ、中国に滞在する台商(台湾ビジネスマン)に対し、親中派の馬英九総統への支持を促すなど、水面下で激しく動き始めた。
駐日大使を務めたこともある中国の台湾担当の閣僚、王毅・国務院台湾事務弁公室主任は17日、重慶で開かれた台湾ウイーク開幕式で、「『92年コンセンサス』の否定を容認しない」「両岸関係の後退を容認しない」などと中台関係の将来について「4つの容認しない」を言明した。
「92年コンセンサス」とは、中国と台湾当局が1992年に国号の解釈をそれぞれに任せたうえ、大枠で「一つの中国」を確認するとした合意の通称だが、独立志向の民進党は「92年コンセンサス」の存在を否定している。
王主任の談話は台湾の総統選挙に直接触れていないとはいえ、民進党候補が当選すれば、中国はこれまでの対台融和政策を改め、厳しい対応で臨む可能性があるとの考えを示したものだ。
王主任は14日の玄葉光一郎外相との会談でも「両岸関係は前向きに進んでいる。現下の趨勢(すうせい)に対する日本の支持を得たい」とも述べていた。
胡錦濤国家主席も今月に入って「92年コンセンサス」の重要性について言及している。一連の発言は中台関係の悪化を懸念する台湾の浮動層への働きかけとみられる。
また、中国に滞在する約100万人の台商に対し、中国当局は親中的な台湾人組織を通じて投票参加を促している。「馬総統のために一定数の票をまとめれば、中国での商売で便宜を図る」と直接言われた台商もいるという。
しかし、中国政府は表では「台湾の選挙に介入しない」(台湾事務弁公室報道官)との立場を崩していない。介入したことが公式に確認されれば、台湾人の反中感情を刺激し、蔡主席有利に働くとの判断がある。
中国は96年の総統選挙前に大規模なミサイル演習を行い、2000年の選挙前には「台湾への武力行使」をにおわす「台湾白書」を発表するなど台湾の有権者を“威嚇”したが、いずれも逆効果で、中国当局が嫌う独立志向の李登輝氏、陳水扁氏が勝利した。こうした「教訓」から、中国当局は今回、慎重な介入を模索している。
上のニュースの最後に、人民解放軍は96年に大規模なミサイル演習を行ったとあります。それは、「台湾海峡ミサイル危機」と呼ばれております。
どのような事件だったのかウィキペディアにて確認してみましょう。
<台湾海峡ミサイル危機>(ウィキペディアより)
1996年に行われた台湾総統選挙で李登輝優勢の観測が流れると、中国軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行した。基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を行ない、台湾周辺では、一気に緊張が高まった。人民解放軍副総参謀長の熊光楷中将は、アメリカ国防総省チャールズ・フリーマン国防次官補に「台湾問題に米軍が介入した場合には、中国はアメリカ西海岸に核兵器を撃ち込む。アメリカは台北よりもロサンゼルスの方を心配するはずだ。」と述べ、米軍の介入を強く牽制した。
アメリカ海軍は、これに対して、台湾海峡に太平洋艦隊の通常動力空母「インデペンデンス」とイージス巡洋艦「バンカー・ヒル」等からなる空母戦闘群(現 空母打撃群)、さらにペルシャ湾に展開していた原子力空母「ニミッツ」とその護衛艦隊を派遣した。その後米中の水面下の協議により、軍事演習の延長を中国は見送り、米国は部隊を海峡から撤退させた。その後中国軍(1996年当時、主力戦闘機はSu-27やJ-8やJ-8Ⅱ)は軍の近代化を加速させている。
演習の動画も御覧ください。
派手な演習ではありますが、この時の人民解放軍の能力では、台湾海峡に派遣された米空母に対して何も出来ず撤退するしかありませんでした。
その時の悔しさを教訓として急激な軍隊の近代化、特に海軍力や空母キラーといわれるミサイルなどの開発、増強に力を入れ続けたきたのです。
<Taiwan Strait Crisis,CPLA Military Exercises 1996>
台湾の総統選挙とは、このような事態が起きるぐらい、中台関係に対して重要なイベントだという事が理解いただけたとおもいます。
冒頭の産経新聞の記事で中台関係について最も重要なのは、王毅・国務院台湾事務弁公室主任が「4つの容認しない」発言です。
最初の容認しない「92年コンセンサス」という言葉が出てきます。これは、中国では九二共識とよばれています。ウィキペディアの解説を転載いたします。
<九二共識)>(ウィキペディアより)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E4%BA%8C%E5%85%B1%E8%AD%98
九二共識(きゅうにきょうしき)は、中国と台湾の当局間で「一つの中国」問題に関して達成したとされる合意の通称である。名称は、中国側窓口機関海峡両岸関係協会と台湾側窓口機関海峡交流基金会が1992年に香港で行った協議に由来し、2000年4月に台湾の行政院大陸委員会主任委員蘇起が名付けて公表した。日本では92コンセンサス、92年コンセンサス、92年合意などと訳される。
合意内容について、台湾側の主張は「双方とも『一つの中国』は堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」(いわゆる一中各表)であり、中国側の主張は「双方とも『一つの中国』を堅持する」(いわゆる一中原則)であるため、必ずしも一致していない。
1949年、中国の国共内戦を経て中国大陸を掌握した中国共産党が中華人民共和国を樹立し、中国国民党の指導する中華民国(国民政府)は台湾・台北に遷都した。その後、中台双方の政権は長年、互いに相手を「反乱団体」と呼び、「二つの中国」は絶対に認めず「中国統一」を目指すという立場を堅持しながら対峙してきた。
1980年代後半に中台間の民間交流が一部解禁されたのに伴い、1991年に中台双方が民間の形式で窓口機関を設立(中国側:海峡両岸関係協会、台湾側:海峡交流基金会)、当局間の実務交渉が始まった。当初、中国側は「一つの中国」原則を協議事項に入れるよう強く要求したが、台湾側は「中国とは中華民国である」とする立場を譲らず拒否した。しかし、1992年の香港協議を通じて「一つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈権を中台双方が留保する(いわゆる一中各表)という内容で口頭の合意が成立したという。これが九二共識といわれるものである。
「一つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈権を中台双方が留保するというのは、それぞれ解釈が異なるので、実質的にはコンセンサスは無いといえます。
また、このコンセンサスは口頭ベースでの合意ということですので、明確な定義を確認することも難しいと思います。
しかし、今頃になって中国政府が92年コンセンサスを持ち出しているのは、何か裏があるような気がします。確実に言えるのは、中国は本音では台湾の中華人民共和国への統一を目指しているという事です。
次に「4つの容認しない」の2番目は、「両岸関係の後退を容認しない」です。
両岸関係とは、台湾関係を挟んだ両岸という意味で中国本土と台湾の関係の事を言っています。つまり、中台関係の事です。しかし、あえて「両岸関係」という言葉を使っているのは、「中台関係」というと二国間関係、つまり国家と国家の関係と受け止められるのを避けるためのだと推測します。
後半では、この両岸関係を推進する根拠となっているのが、「反国家分裂法」について確認してみたいと思います。
(後半に続く)