■エジプト革命は軍部によるクーデター?
エジプトのムバラク大統領がついに失脚しました。
この事件についてのニュースなどの報道では、「独裁政権を民衆の力で引きずり下ろした。」と好意的です。しかし、実際は軍によるクーデターだった可能性があります。次のニュースを御覧ください。
【ニュース1】
<エジプト:ムバラク前大統領辞任 軍が最後通告>
(毎日新聞 2011年2月14日 19時28分)
http://mainichi.jp/select/world/news/20110215k0000m030039000c.html
【ワシントン草野和彦】エジプトのムバラク前大統領が今月10日に「即時辞任拒否」の演説をした後、一転してカイロを追われて辞任する事態になったのは、エジプト国軍が「辞任か追放」という二者択一の最後通告を突きつけた結果だったことが、米紙ワシントン・ポストの報道で分かった。
同紙によると、反政府デモの高まりの中、エジプト国軍とムバラク政権指導部の間では先週半ばまでに、ムバラク氏が何らかの形で権限移譲をすることで合意していた。オバマ米政権も10日までに、国軍から「辞任か権限移譲」の二つのシナリオを聞いていたという。
ところが、ムバラク氏は現地時間10日夜の国民向けテレビ演説で、スレイマン副大統領への「権限移譲」を発表しただけで、即時辞任を拒否し、側近さえも驚いた。演説の数時間後、軍部は「辞任か追放」を迫り、ムバラク氏はカイロ脱出という不名誉な結末を迎えた。この演説は、ムバラク氏の去就を巡って揺れ続けたオバマ政権にとっても決定的で、政権高官によると「米国を間違いなくエジプト国民の側に付かせた」という。
一方、AP通信によると、演説は当初、ムバラク氏の即時辞任を表明する内容だったが、一時は後継者とみられていた次男のガマル氏が、直前に原稿を書き換えたという。家族や一部側近は、まだ辞任しなくても大丈夫と判断していたらしい。
(転載おわり)
このニュースから、現在エジプトの実権は軍部が握っていることがわかります。
このエジプト革命は中東にとってどのような影響を与えるのでしょうか?どのような懸念が発生したのでしょうか?
それについては、13日の読売新聞が報道しています。
■エジプト革命は中東の安定を支えていた大統領を失脚させたクーデター
【ニュース2】
<イスラエル「安保の要」失う…ムバラク辞任>
(2011年2月13日20時36分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110213-OYT1T00452.htm
【エルサレム=加藤賢治】イスラエルにとって、エジプトのムバラク前大統領失脚は、自国の安全保障の要を失ったに等しい重大事だ。パレスチナとの中東和平交渉でも、親米穏健派のムバラク氏はアラブ諸国とイスラエルとの橋渡し役を務めてきただけに、イスラエルは外交戦略の大幅見直しを迫られることになる。
エジプト軍最高評議会は12日の声明で、国際協定は順守すると述べ、イスラエルとの平和条約を堅持する姿勢を示した。ただ、イスラエルは、軍による暫定統治が終わった後の議会選ではイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が台頭する可能性が高いと見ており、そうなった場合に平和条約の見直しを求める声が高まることを恐れている。エジプトで見直し機運が高まれば、やはりイスラエルと平和条約を結んでいるヨルダンの世論にも影響しかねない。
(転載終わり)
この記事から、ムバラク大統領は、「独裁政権」といわれていますが、アラブの穏健派であり、平和条約を遵守する大統領だった事がわかります。つまり、エジプト革命は、中東の安定をささえていた大統領が失脚させたクーデターだったわけです。
■懸念事項は、ムスリム同胞団の台頭とイスラエルとの平和条約の破棄
【ニューズウィーク】
<エジプト危機に震え上がるイスラエル>
アラブ世界との橋渡し役であるエジプトが政権崩壊すれば、中東でユダヤ国家の孤立が深まる
2011年02月01日(火)18時17分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2011/02/post-1942.php
エジプトのホスニ・ムバラク大統領の退陣を求める抗議デモの様子を、イスラエル人は固唾をのんで見守っている。ユダヤ国家であるイスラエルにとって平和条約を交わしたエジプトは、アラブ世界における頼れる盟友と言っていい。
ムバラク政権の崩壊は「イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、湾岸諸国、ヨーロッパやアメリカにとって大惨事になる」と、イスラエルの元駐エジプト大使エリ・シャケドは言う。「我々の友人の中で、この最悪のシナリオで得をする者などいない」
~中略~
アメリカの中東政策は見当違いだった。
有識者らが心配するのは、事実上の最大野党であるイスラム原理主義勢力「ムスリム同砲団」など、平和条約に反対する勢力がムバラクの後を継ぐことだ。「反体制派が政権に就いたら最悪だ」と、シャケドは言う。「彼らは真っ先にイスラエルとの関係を断つだろう。労働組合や学生、イスラム過激派からの支持を拡大し、反政府勢力を団結させるためだ」
それでも、ムバラク政権の終わりが必ずしも平和条約の終わりを意味する訳ではないと、イスラエル当局者らは言う。「今のところありそうにもないが、ムバラク政権が倒れた場合でも、政権に就くのがイスラム過激派だとは限らない。アメリカの協力やイスラエルとの平和条約が、エジプトにとって戦略的価値があると理解している勢力になるかもしれない」
多くのイスラエル人は、エジプト国民がムバラクに反旗を翻すことはないだろうと思っていた。ネタニヤフの元側近であるザルマン・ショバルによれば「エジプト国民は総じて、暴力行為を働こうとは思わない平和的な人々だ。それでもアメリカは不安に思っているはずだ。中東に対する自分たちの態度や理解が全体的に間違っていたのではないか、と」
中でも、中東地域の不安定さを解決するにはパレスチナ問題が鍵だと信じ、そこに労力を注ぎ過ぎたことがアメリカの間違いだったとショバルは指摘する。「パレスチナとイスラエルの問題は、中東安定化要因の1つでさえないことが改めて証明された。チュニジアやエジプト、アルジェリアで起きていることは中東和平とは何の関係もない」
今回の騒乱はイスラエルにとって盟友エジプトを失う危険性だけでなく、アメリカ外交の過ちという二重の不安をかき立てるものになった。
(転載おわり)
この記事でわかる事は、エジプトのムバラク大統領が失脚することにより、中東でのアメリカのプレゼンスや影響力が低下するということです。それによりアメリカの庇護で守られてきた、イスラエルが危機を迎える可能性が高まります。
つまり、エジプトとイスラエルの平和条約の破棄というのは、アジアの安定を保ってきた日米同盟が破棄される事と同様にあってはならないほどの大きな危機が起きるということです。
■アジア重視の2011年版「国家軍事戦略」
さて、このエジプト革命が日本の安全保障にどのような影響があるのかを考えなければなりません。
2月9日の報道で、米国が7年ぶりの「国家軍事戦略」を公表しました。中国・北朝鮮の軍事的脅威にさらされている日本にとっては幸いな事に「アジア重視」をうたっています。
まずは、下記記事を御覧ください。
【ニュース3】
<中国軍拡懸念、アジアを重視=自衛隊に国外活動促す―米戦略指針>
(時事通信 2月9日(水)8時9分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110209-00000024-jij-int
【ワシントン時事】米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長は8日、米軍の今後の運用指針となる2011年版「国家軍事戦略」を公表した。中国の軍拡など急激に変化するアジア太平洋地域の安全保障環境を重視する方針を鮮明にし、北東アジアで今後数十年間、強固な米軍のプレゼンス(存在)が維持されるとの見通しを示した。
また、地域の安定化のために日本、韓国との連携を引き続き強化していくことを盛り込み、「自衛隊の域外での運用能力向上に協力する」と明記。自衛隊に国連平和維持活動や対テロ戦支援など、さらなる海外活動に参加するよう促したものとみられる。さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化を強調した。
米軍高官は8日、記者団に「在日米軍や在韓米軍の兵力を大きく変更することは考えていない」と説明。戦略は、軍事演習などを通じてアジアの同盟国や友好国との連携を深めることで米軍のプレゼンスの増強を図り、展開能力を強化することに主眼を置いている。
国家軍事戦略は、国防総省が今後20年間の安保環境の変化を見据えた国防計画見直し(QDR)を昨年決定したことを踏まえ、04年以来7年ぶりに本格的に更新された。
(転載おわり)
■同時に二つのシーレーン危機を迎える日本
もし、エジプトがイスラエルとの平和条約を破棄することになった場合、米国は上記の「アジア重視」を取り下げざるを得なくなります。しかし、最も自覚しなければ行けないのは、中東の危機で世界一大きなリスクを受けるのは、石油の多くを中東から輸入している私達の国日本であることです。米国はわずか中東への石油依存度はわずか15%です。
つまり、東シナ海で中国海軍の脅威をうけている日本にとっては、「中東(ホルムズ海峡)のシーレン」の危機と「バシー海峡のシーレーン」の危機が同時に起きる危機が迫っているのです。そして、両方とも完全に米国に依存しているという異常な状態です。
これからは米国依存一辺倒ではなく、中東から東シナ海に至るシーレンの安全保障を日本自身で考え戦略を立てそれに基づいて軍事・外交戦略を立案できる国家へと変わらなければ、日本の未来はないと思います。
(JSN代表 仲村)